南アフリカ障害者権利憲章(1992年)と自立生活

 ソウェト自立生活センターの月例ミーティングで、きちんと歴史と障害者の権利について勉強しよう、とマネージャーのムジが発案して、今週金曜日から毎月、歴史的な文書を読むことになりました。

 ムジは勉強する、というより、そうした文書を90年代から書く側の人でしたから、教える方ですね。次の世代に伝えよう、ということです。

 第1弾は、南アフリカ障害者権利憲章(Disability Rights Charter of South Africa)です。

原文は南アフリカ精神保健連盟のサイトからダウンロードできます(PDFファイル)

3ページほどの短い文書ですが、歴史的には意義深い
この文書が出てきた背景として、以下の流れを簡単に知っておくといいと思います。
  • アパルトヘイト政策を取って国際的に孤立していた南アフリカ政府は、1981年国際障害者年を認知しなかった。しかし、NGOによる活動は活発になった
  • 1982年、国連「障害者に関する世界行動計画」を採択
  • 1986年、ようやく国内障害者年を実施。政府とNGOによる調査が行われ、人種・地域にかかわらず、障害者のサービスが殆どないことが明らかに
  • 1990年、ネルソン・マンデラ釈放。アパルトヘイト政策廃止の方向へ
  • 1991年に、人権弁護士協会障害権利部(Disability Rights Unit of Lawyers for Human Rights)と南アフリカ障害者協会(Disabled People South Africa: DPSA)が障害者権利憲章の起草を開始
  • 1992年12月、DPSAで憲章が採択
 この後の流れも見ると、この憲章がひとつのNGOが出した文書、というのではなく、南アフリカの障害者政策のターニングポイントだったと言っても過言ではないことがわかると思います。
  • 1994年、南アフリカ全人種参加による総選挙、アパルトヘイト廃止
  • 1996年、南アフリカ新憲法制定、第9条に障害による差別の禁止
  • 1997年、統合国家障害戦略白書(Integrated National Disability Strategy White Paper)策定。白書とは、日本のような政府報告書の意味ではなく、政策を示したもの
 障害者権利憲章は、「我々、南アフリカの障害者は、以下を要求する」から始まり、18条に渡る権利が書かれています。

第1条 非差別 (non-discrimination)
第2条 障害者自身による関与 (self-representation)
第3条 保健とリハビリテーション (health and rehabilitation)
第4条 教育 (education)
第5条 雇用 (employment)
第6条 スポーツとレクリエーション (sports and recreation)
第7条 社会保障 (social security)
第8条 住宅 (housing)
第9条 交通 (transport)
第10条 建築環境 (built environment)
第11条 障害児 (disabled children)
第12条 障害女性 (disabled women)
第13条 自立生活 (independent living)
第14条 コミュニケーション (communication)
第15条 社会生活への参加 (participation on social life)
第16条 予防 (prevention)
第17条 積極的是正措置 (positive action)
第18条 政策的・法的強制力 (enforcement)
この憲章では、予防、リハビリ、教育、雇用など、障害者に関する世界行動計画でも取り上げられている項目だけでなく、たとえば自立生活のような独自性のある項目も、障害者の権利として取り上げられている点に注目したいところです。

 障害者に関する世界行動計画の中に、independentという言葉は3ヶ所出てきます。2ヶ所はリハビリテーション、1ヶ所は物理的環境です。しかし、南アフリカ障害者権利憲章では、そうした文脈で自立生活を取り上げていませんでした。

第13条 自立生活
 障害者は、彼らの地域で自立して生き、広い社会で生きていくのに必要な技能を開発するための権利を与えられ、促進され、また支援されるべきである。そして、そのために適切で適当な支援システムが提供されるべきである。
訳文がこなれていないのは置いておいて、1992年当時の文章としては、結構先進的に思えるのですが、どうでしょうか? 障害者権利条約19条で自立生活が謳われる14年前ですよ。

 このあたりが、現地で色んな人から言われる「南アフリカ的文脈」の一端とも言えるのでしょうか。

(参考:1980年代の南アの自立生活センター)

 しかし、この宣言は十分に政策に生かされず、いつの間にか、リハビリテーションと残存能力の活用による自立、という定義に置き換わってしまいます。この話はまた機会があれば。



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