虹の国の国歌を歌えない?虹の国の人たち

 保育園から帰ってきた娘が、学校で習ったよと言って、

♪ンコシシケレーリーアーフリーカー

と歌ってくれました。南アフリカの国歌の出だしですね。

 南アフリカは12月で学年が終了します。12月は3週目ぐらいから休みに入りますので、今は学年最後の発表会の準備で、保育園も小学校も練習に励んでいるようです。近所の子どもたちが帰る道々歌うのも、遠くに聞こえてきます。

 この歌の由来は、色んなサイトに出ているのでそっちが詳しいと思いますが、ざっくり言うと、歌の前半は『神よ、アフリカに祝福を』という反アパルトヘイト運動、黒人解放運動の象徴となった歌から取っています。

 では後半は、というと、こちらは『南アフリカの呼び声』というアパルトヘイト政権時代の南アフリカの国歌から取っています。

 民主化された、虹の国の象徴として、両方を合わせた歌を作った、ということなのでしょうね。

 11ある公用語の内、コーサ語、ズールー語、ソトゥ語、アフリカーンス語、英語の5言語で各節を歌い繋いでいきます(5バージョンあるのではなくて、1つの歌の中に5つの言語が入っています)。2つの歌をくっつけたということで、途中転調しますが、綺麗に一つの歌にまとまって、盛り上がります。

 訳付きの動画がユーチューブに上がっていたので、貼り付けます。

 これは、2014年にヨハネスブルグ・エリスパークスタジアムで行われたスプリングボクス(南アフリカ)vsオールブラックス(NZ)の試合前の模様です。ちょうどこの日は、日本から出張で来ていたピア・カウンセラーの人たちが帰国した日で、もう1日長く滞在していればテレビで盛り上がれたのに残念でした。



 さて、このように歴史的背景も相まって、とても意義深い歌ではあるのですが、当の南アフリカ人の中にはこれを歌えない人たちも多くいます。

AFP通信  W杯開幕、南ア国歌を「歌えない」国民たち その複雑な背景(2010.6.11)

 この記事では、一部の言語で歌詞がわからない人がいる、というのと、特に黒人層の一部で旧体制への反発をもつ人がいる、という2つの理由を分析しています。

 私が見ている感じでは、前者の方が多いのかなあ。ラグビーの試合だと、白人層が多いから、アフリカーンス語の部分になると声が大きく聞こえてくるし、黒人層の多い集会だと、途中から声が自信なげにトーンダウンしたり、アフリカ系言語でも普段使わない言葉だとモゴモゴしていたりします。もちろん、歴史的背景から、アフリカーンス語の歌詞を歌うのに抵抗がある人もいるでしょう。

 2013年12月の障害者の日のイベントがハウテン州セディベンでありました。参加者のほとんどは、動員された地域の障害者や家族、関係者です。

 国歌斉唱があったのですが、やはり、途中から声が小さくなったりする人が多くなりました。国歌斉唱の後、DPSA(南ア障害者協会)ハウテン州支部のダンさんが、「この歌は、私たちの国の歴史にとってとても大事な歌なので、ぜひみんな覚えてほしい」と訴えていました。

 それまでは、南アの人はみんな5言語の歌を歌いこなせる、すげー、と思っていたので、結構ショックでしたね。

 この日、障害者バンドのパフォーマンスの時間は、手話通訳も含めてノリノリだったんですがねえ。。



 自立生活センターソウェトのムジと、タイではテレビ・ラジオや公共の場で定時に国歌が流れるよ、という話をしたら、「南アフリカにこそ、そういうのがいるんじゃないかなあ」と言っていました。

 学校では冒頭に書いたように、国歌を習う機会があるので、若い世代は覚えられるのでしょうが、大人になるとちゃんと習う機会がないので、5つの言語の混じった歌なんてなかなか覚えられないかもしれません。

いつも聞くのでもちろん知っているし、支持するのだけれど、自分で歌えとなると全部をきちんと歌うのは難しい。それが大方の人にとっての南アフリカ国歌なのかもしれません。




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